Rainy Day





―――窓に当たる、強い風の音と大粒の雨の雫。

昨夜から続いている嵐は、せっかく二人で出かけようとしていた休日の予定を、天気と一緒に大幅に崩してくれやがった。

強風で揺れる外の木が、まだ若い緑の葉を散らしている。

ガラス窓は、外気と部屋の中の温度差の所為で、少しだけ曇っている。

(…まぁ、しかたねぇ、な)

オレが、窓の外を眺めながら小さく溜息をつくと。

「左之助さん。」

考え事をしているのを邪魔をしないように…とでも考えたのか、静かな声で千鶴が話しかけてきた。


オレが着古したセーターを着た千鶴は、両手に持っていた白いマグカップの一つを俺に手渡してくれた。

「…サンキュ。ちゃんとあったまってきたか?」
「はい。でも、左之助さんのセーター…すごく大きくて、ちょっと大変です。」

千鶴は苦笑しながら、何度も折り返した袖の先や、肩先からずり落ちてくる襟ぐりを直している。
オレと千鶴はえらい体格が違いすぎるからな…オレには丁度良くても、こいつにはワンピースになっちまっていた。

「…来いよ。」

オレが手を差し伸べると、千鶴は嬉しそうににこりと笑って、俺が座っている前にちょこんと膝を立てて座った。


 柔らかくて、小さくて。


オレよりも少し高い千鶴の体温は、「安心」という気持ちを与えてくれる。

「…悪いな。こんな天気じゃ、外に連れ出してやれねぇ。」

天候ってのは、どうにもならねぇ。
でもオレは、こいつが出かける事を楽しみにしていたのを知っている。


今日は、いつもより遠出をするつもりだったし、朝早く出発する予定の為に、昨夜はオレの部屋に泊めた。


 それだってのに―――。


オレが、外の風景を眺めながら溜息をつくと、オレの目の前にある小さな頭が揺れて、「ふふ」と小さく笑った。

「左之助さんと一緒なら、どこでも楽しいですよ?」

白いシャツを羽織っただけのオレの胸に、とん…と。
小さな身体が、体重をゆっくりかけて寄りかかってくる。
風呂上がりのしっとりとした柔らかな黒髪が、さらり、とオレの肌をなぞった。


「…お前…オレと同じ、シャンプーの香りがする…」


時が止まっちまったような、雨の日曜日。

朝の雨模様にしかない、暗い色をした昼の光の中。

オレは、目の前にいる愛しい女を後ろからそっと抱きしめた。