恋 慕

 

 

「…んっ…!」
苦しそうな声が聞こえた。
ほんのかすかな良心の呵責が胸中をよぎったが、それを超える欲が、

身体を突き動かす。
「…ゆ、きむら…」
感情のままに呼んだ声は掠れ、自分が思うより切迫していることがわかった。
組み敷いた愛しい小さな身体は、微かに震え、硬く強張り、
眉間にしわが寄るほど強く閉じた瞼が、彼女の不安を如実に、語っている。
その反面、抵抗をしないのは了承の証か。
歓喜に、突き上げる衝動に堪え切れず、固く引き結んだ口唇に、己のそれを重ねる。

 

ぷっくりと柔らかい口唇の感触に、その現実に、軽く眩暈を感じながらも、そこから伝わる震えに、愛しさのあまり口の端に笑みが浮かぶのを抑える事が出来ない。
口の端をあげる笑みは総司の専売特許だ。
いつも彼にからかわれている彼女にとっては、屈辱かもしれない。
自分もからかっているとでも思われてはならない。
誤魔化すように、合わせる角度を変え、舌をそろりと差し出してみる。

案の定、硬く引き結ばれた口唇。
そっとなだめすかすように、舌先で口唇を舐め、少し力をいれて舌を差し込む。
「ん…」
驚いたような声を漏らす千鶴をなだめるように、その肩を撫でると、それに沿って力が抜けていくのがわかった。
肩をなぞった手をそのまま彼女の二の腕、肘、手首を辿り、
小さな手に辿り着くと、指を絡めて強く握る。

直接触れ合う肌から伝わる体温が熱い。
ただの手でさえも普段は触れる事はほとんど皆無で、
たった今、触れた肌の滑らかさと柔らかさに彼女が幼くとも、
まぎれもない女である事を認識し、同時に自分も一人の男だと言う事を痛感する。
その証拠に、その肌や重なる口唇に、更に予想できるその先の行為に、男としての欲を兆しているのだから。

半ば力づくで、歯列を割り、生暖かい彼女の口内の奥で怯える舌に、自分の舌でそっと触れると、びくりと両肩を跳ね上げ、微かな抵抗だろうか、自由になる手で、副長からいただいた洋服の「べすと」とやらの胸あたりを押し返すように掴んでくる。
それすらも、愛しくて・・・。
「・・・っ」
苦しそうな声が鼓膜に届いた。乱暴にしすぎたかと、薄目で彼女の表情を見ると、自身で頭を持ち上げているようで、首に肩に不自然な力がこもっている。
『何故・・・?』
一瞬、彼女がこの行為を望んでの行動かと、胸が逸ったが、もう一人の自分が冷静に分析していた。そうか、結い上げた髪が、畳に当たり痛むのであろう。
そう認識すると同時に、いつも高く結われている髪紐を解いてやる。
シュル・・・
止めるものをなくした黒い髪が、畳の上に広がり、彼女の香りが一際強く鼻腔をくすぐる。
静かな部屋にいやに大きく響く音。その音に彼女も驚いたように一瞬目を開いた。
が、眼前で自分を見つめる目に気付いたのか、再び怯えたように目を強く閉じ、更に腕の中から逃れようと、身体をよじり、顔を背けようとする。

了承なのか、否なのか・・・。読めない彼女の反応に、愛しさを越えた歯痒さが顔を出す。
自分とて、一人の男だという事を、思い知らせてやりたい。
寡黙で冷静な三番組組長でいるのは隊務の時だけで十分だ。
彼女の前では自分が一人の男であることを思い知らせてやりたい。
怯えさせるまい、と密着させずに浮かせていた腰の兆しを、彼女の下半身に押し付けてやる。
着物を通してもその違和感に気付いたのだろう、逃げるように腰を引くが、上から押さえつけられ思うように身体を動かせず、更に全身を固くするばかりだった。

思うがままに蹂躙した口唇を、ゆっくりと離すと、はあ、と大きな呼吸音が漏れた。
途中で息をする余裕もなかったのだろう、その慣れない様子に更に煽られ、髪を撫でていた手で彼女の首筋をなぞり、そのまま着物の上から微かな膨らみに触れる。
「さ、斎藤さっ!」
目尻に涙を浮かべた怯えた瞳が見つめてくる。
「いや、か?俺に触れられるのは・・・」
いい加減、この行為が意味するものに気付いてはいるだろうに。
「・・・・」
無言で視線を外す仕草は、否、なのか了なのか、この高ぶった気分では、ただじれったいだけで、結論を急ぎたいと全身が叫んでいた。
「無理強いはしたくはないのだ・・・・」
心のどこかで、否ではない、羞恥がうなづくことを恐れているだけだという根拠のない自信が早くしろとせき立てる。その証拠に押し付けた下半身に無意識に力をいれ、いつの間にか、彼女の両足の間に割り込んでいるのだから。
「何故、返事をしない?こんなことをする人間とは口も聞きたくないか・・・」
「・・・そっそんなことは・・・」
「しゃべれるではないか。では、もう一度聞く、返事がなければ了と受け取るぞ」
「ちょっ・・・と待ってくださ・・・!」
「待てぬ、俺はそれほど気が長くはない」
一度、言葉を切り、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けると、彼女の目をじっと見つめて、決断を迫る一言を吐き出した。

「・・・・雪村、俺に触れられるのは嫌か・・・?」
今度は視線を外すことは許さない。彼女の顎に手を添え、動きを封じる。
「・・・・答えろ。でないと、俺は・・・もう・・・っ」
彼女の目を見ていると、全身にぞくりと衝動が走った。
(はやく・・・なんでもいいから答えを!)
「嫌では、あ、りません・・・嬉しい・・・です」
涙をたたえた瞳から、ぽろりと一筋の涙が頬を伝った。
「雪村・・・っ!」
塞き止められていた水が一気に流れ出すように、手が指が、口唇が性急に彼女をむさぼる。
「あ、斎藤さっ!待って・・・っ!」
「・・・待てぬ、もう散々待ったのだ」
帯を解くのもじれったく、無理矢理着物の胸元をゆるめ、中で震える小さな胸に口唇を這わせる。空いた手で、袴の中に手を差し入れ、ふくらはぎからももをなぞる。
「んっっ!」
こぼれる吐息、身じろぎ、体温、全てが愛おしい。
「許せ、それほど優しくしてやれそうにない・・・・」
答えを聞かず、噛みちぎる勢いで、感情のまま彼女の口唇を奪うと、
そこからは、もう・・・・。